2013年10月30日水曜日

no.24 竹竿屋の幸せ


竿屋の幸せ。改めて聞かれると以下の様に答えている。
 

 
まずは新しいロッドのアイデアが浮かんだ時。新しいロッドを作っている時。
作った新作ロッドが予想を超えて良い出来上がりだった時。その新作ロッドで大物鱒を
上手くランディング出来た時、等など。

更にはそのロッドにオーダーが派生した時。納竿後オーナーから喜びと感謝の言葉が
届いた時。

私がそのスキルを認める釣り人やフライキャスターからロッドが絶賛された時。又は
尊敬する世界的なバンブーロッドビルダーから本音で絶賛を受けた時。これらの大きな
エポック以外にも制作時の日々の小さな喜びを数えて行けば切りがない。


つまり私は竿屋である事が幸せなのであり、バンブーロッドビルディングの仕事を天職
だと思っている。





今年6月、アメリカのバンブーロッドイベントBambooRodDays。アイダホ州の銘流
ヘンリーズフォーク河畔で毎年開催されるこのイベント、今年のゲストはあのTOPビルダー
のトム・モーガンとウインストン繋がりの同じくバンブーロッドビルダー、グレン・ブランケット。
初日の午後2人の講演が行われた。


講演内容はバンブーロッドビジネスの過去と現状についてだった・・・様に思える。
何せ私の拙い英語力からは、大方の流れくらいしか予想?がつかない。

講演はグレンが話題を振り、時にトムの意見を聞くスタイルだ。
ご存知の様にトムは多発性硬化症と言う運動機能障害の難病に掛かっていて、
長年の車椅子生活の為、会場でも車椅子の背を倒し、寝そべった状態で、
マイクを通じて小さな声でその質問に答えて行く。
トムの声はマイクを通しても、耳を済ましていないと聞こえない位。
50~60名で満員に成る小さな会場だったが、トムの声に会場全体が無音で耳を傾ける。
普通に聞こえても分からない英語が、トムの小さな声では私にはほとんど聞き取れなかった。
残念無念!!


45分後予定の質疑応答も終わり、拍手喝采で講演が終了解散。
その後、参加者のほとんどが、朝のキャスティング広場に戻り、再びキャスティング。
私達もアメリカの友人達とバカを言い合いながら楽しんでいると、知人のフィリップが私に
話掛けて来た。
「トム・モーガンがアキマルと話がしたいと言ってるのだが、どうする?」と言うのだ。
 

エッ?!一瞬自分の耳を疑ったが本当らしい。
喜んでトムの待つ木陰に行くと本当にトム・モーガンが待っていた。
挨拶もそこそこにまずトムが切り出した。


「フィリップからあなたのロッドが素晴らしいと聞いたので、是非私にも見せて貰えないだろうか?」と。

「もちろん」

自作のロッドを彼の目の前で、両腕に乗せ、かざす様に見せる。

車椅子の背もたれを起こしたトムが、反射鏡のついた眼鏡越しに言う。

「もう少しロッドを下げてくれないか」

「もちろん」

トムの目だけが動き、ロッドの端から端迄を食い入る様に観察して行く。何だか自分の首当たりがむずがゆい。

「素材は?」

「WATAKEという日本の野生の竹で私のオリジナルブランドなんだ。というのも日本の私の地方の山に
自然に自生している竹の中から、私が選んで、其れを日本の伝統的油抜きの技術を持った竹職人さんが
油抜きをしている真っすぐで、美しい竹だけをWATAKEと言ってるんだ』

「このブランクのエッジは凄いシャープだね」

「そうでしょ。私は竹素材の美しさと6角のこのブランクエッジこそがバンブーロッドだと考えているんだ。
そのエッジと素材の美しさを表現する為に仕上げは、最初からオイルフィニッシュなんだよ」

「ジョイントが凄いらしいね」

「YES!!」

 私は新作の印籠継ぎジョイント=スピゴットバンブーフェルールを繋いで見せ、又抜いてみせた。
 目と耳の感覚が鋭いトムにはその継ぎのフィッティング感が分かったのだろう。トムが唸った。

「アメージング!」

 この言葉に私の興奮がピークに達した。年甲斐も無く、うれしさのあまり涙がにじんだ。

「有り難う。トム」

トムもこの私の興奮を理解してくれた様で私の目じっと見ていた。

トムが言った。
「旅は何時迄?時間が有るならばもっと話がしたいのだが、どうだろう?
良かったら私のモンタナの工房迄遊びに来ないかい?」と

勿論「YES!!」
トムは長時間体を起こしておくのが辛い事が私にも見えた。




3日後トムの自宅兼工房に仲間と一緒にお邪魔した。

この日はトムに加え、奥さんのジェリーとアシスタントビルダーのジェイソンも迎えてくれた。
まずは工房に案内してもらった。思いの外小さなスペースはトムの行動範囲を考えた上での空間であろう。
トムの考案した両刃鉋のトムモーガンミルズで実際に竹を削らせて貰った。
ジェイソンにアキマルロッドを振らせてやってくれとトムが言う。
勿論。
私はトムのバンブーロッドを数本振らせてもらう。横で私のロッドを振っていたジェイソンの質問攻めに
何とか英語で自分で答えて行く。かなりシビアな質問だったが、この若者は竹竿作りに人生を掛けているのが分かるくらい情熱的でうれしかった。
何とか日本の先輩ビルダーは、最後迄質問に答えて行けた・・・と思う。

ジェリーのごちそうしてくれた冷たいレモネードが真夏のモンタナにはぴったりで旨かった。

キャストを終えると、リビングの方にも案内してもらう。歓迎されているのが分かる。
私は意を決して、この前日2日間考え続けていたアイデアをトムに伝える事にした。

「トム、私はあなたの事をもっと知りたいと思っている。特にバンブーロッドビルダーのトム・モーガンが今
何を考えているかを知りたいと思っている。そこで提案なのですが私とあなたでコラボレーションロッドを
作ってみませんか?あなたの考えるテーパーで、実際の製作は私がやる。私のスキルでは駄目ですか?
どうでしょう?」

 トムが答えた。

「面白いね。今は当分忙しいから、すぐには難しいが、1ヶ月待ってくれれば私のテーパーを送れるよ。
ただし、素材はWATAKE。仕上げはオイルフィニッシュで。ジョイントはスピゴットバンブーフェルールで作って欲しい」

「YES, 総てOKです。では今度は私から提案、ロッドはあなたの得意な川で使う為の#4ライン仕様のトラウトロッドのテーパーでやりましょう」

更に私が続けた。

「実は私はあなたの名前こそ存じ上げていたが、ごめんなさい。あなたの過去の実績等は何も知らないのです。
ただ今回こうして話が出来た時、私はあなたの人間としての凄さを理解出来たと思います。
その上で私はバンブーロッドビルダーとしてもあなたを尊敬します。
自分の人生に対する考え方が改めて正解だと思えました。
人は今この時を一生懸命生きるべきなのだと。
何時も今がベストなのだと思える人生が素敵だと、あなたから改めて教えてもらいました。
トム。あなたは私のヒーローだ。これからもお互い良いバンブーロッドを作り続けて行きましょう」
こう言いながら涙で言葉が詰まった。その場に居た全員がもらい泣き。トムも涙をにじませながら私の目をじっと
見つめていた。





旅をすると感動に出会える。
旅先だとテレも無く自分の気持ちを素直に表現出来る。そんな自分を肯定する私はやはりナルシストなのだろう。




帰国から1ヶ月、約束通りトムからテーパー数値が送られて来た。
7’6”#4ライン用のトラウトロッド。
数値からはティップアクションが想像出来る。トンキン竹ならばこのままで良いだろうが、WATKE素材でこのままの数値でやると、対象魚のサイズが私が考えていたものより少し小さくなってしまう。トムに改めて対象魚のサイズを確認した方が良いだろう。近々にトムに確認した上WATAKE用テーパーグラフを起こす事にしよう。




●次回の10DAYSはトム・モーガンが希望した新機軸のWATAKEロッド、竹製印籠継ぎ=スピゴットバンブーフェルール
ロッドの話をお届けします。
●11月29日から12月1日迄東京渋谷の表参道アートギャラリー"ニ”モードで展示会を開催します。
是非お遊びにいらして下さい。会場でお待ちしています。