アキマルロッドにはロッド名がある。
皆様ご存知のトラウトロッド 794 Henry's Fork Special 、764鱒王、山女魚用ロッドだと704 rusty、rhapsody、最近では805 Number-5 とか、Tom Morgan とのコラボレーションロッド 764 Aki & Tom 等など。
直感や閃きですぐ決まるものもあれば、長い間考え抜いても決まらなくて、ある日、何かのヒントで決まった物もある。いずれにしてもロッドのネーミングは思い入れがあり、楽しい作業である。最近できた自信作804 HEXA トラウトロッドは大分迷っていたのだがある日の突然の出来事で名前が閃いた。その名前にまつわるアキマルの思い入れ話。ちょっと長文お付き合いを😁
話はその昔1986年・・・・私の初めてのアメリカ旅。それがトラウトフィッシングの聖地 Henry's Fork。
この旅の案内人は言った “ フライフィッシャーマンにとってHenry's Forkの釣りは、知るも地獄、知らぬも地獄”・・・・・”と。このHenry's Fork(以下HF)を知った時から、案内人の言う通り、私は間違いなく地獄に落ちた。以来34年寝ても覚めてもHFのマッチ・ザ・ハッチ釣り攻略を生き甲斐に、仕事としてのオリジナル Henry's Fork Rod = Trout Rodの事ばかり。
かく言ったHF地獄への案内人が私の師 芦澤一洋氏。
先日、北海道の52cmを取り、新作ロッドの最終テストでOKを出していた。しかしロッド名の決定的な物が無い。加えてコロナの所為で11月初めの東京展示会を中止していたこともあり、新作ロッドのネーミングを決められずにモヤモヤしていた。そこに、突然、若い友人が1987年の芦澤さんのTV番組をわざわざDVDにダビングしてプレゼントとして持ってきてくれた。
映像は1987年6月23日、当時現役バリバリの49才だった芦澤さんが38才のマイク・ローソンのガイディングで、HFの知る人ぞ知る名ポイント BIG OSBONE SPRINGS の大鱒を釣るTV番組。しかも取ったのは、定位置でライズを繰り返す、比較的取りやすい鱒では無く、動きながら採餌している超難関のマッチ・ザ・ハッチの大鱒だった。
この番組の日本人フライフィッシャーマン芦澤一洋の若くて、Coolな事。私の様な芦澤マニアには堪らない😁
芦澤さんが超難敵の大鱒を掛けた瞬間、モヤモヤしていた新作ロッドの名前が決まった・・・・・・・・・・・・
芦澤さんの生きた時代のフライフィッシングが懐かしい。良い時代だった。
彼の世界観に共感、本場米国のフライフィッシング世界に憧れ、地獄に嵌った釣り人は幸せでしたね・・・・と心底から私は思う。
ここ数年、地球温暖化のせいで毎年のように川や山が破壊され、日本のFF 山女魚釣りが確実に壊滅状態へ向かっている事を思えば、1987年の画面に映るHFの風景がほぼ今も変わりなく、そのままHFに存在している事がFFの本場と言わしめるアメリカFF世界の底力の様に思える。その本物FF釣りの凄さを40年近く前から日本に紹介して来た日本人芦澤一洋のセンスの良さが重なり、心から我が師が誇らしく、懐かしい。
私のバンブーロッドビルダーへの道を開いてくれたのも芦澤さんで、以来33年、芦澤さんのおかげで幸せな人生を過ごしている。この芦澤さんTV番組と同じ1987年からバンブーロッドビルダーへの道を歩き始めたのも、Henry's Forkの釣りに捕まったのも運命を感じてしまう。
2011年にマイクの店でアキマルバンブーロッドの商品コーナーを設けて貰い、芦澤さんのTVポイントでマイクと一緒に釣り、アキマルのフジTV特別番組でマイクのガイドでHFの大鱒を釣った。マイクが私の794 Henry's Fork Specialで63cmのスーパーレインボーを取った。さらにはレジェンドTom Morganとのコラボレーションロッド Aki & Tom 764HEXAの話が突然生まれたのもHFでのTomとの出会いからである。現代の最高峰ビルダーPer Brandin との親交も深くなり803HEXAも一緒に作った。コロナのせいで順延になった名門Catskill 博物館でのアキマルの第2回目の展示会も2年内に実現するであろう。釣り世界の人間ならば嫉妬すら覚えるようなキャリアだと友人達が褒めてくれる。全て芦澤さんのお陰である。幸せだと素直に言える、ここまでのバンブーロッドビルダー人生だと・・・・・。
ただ、ただ一つだけ、心の何処かで気になっていることで結論を出せないでいた事があった。それが数十年ぶりに見た芦澤さんとマイクの釣りで区切りがつけそうに思えた。
長年心の中に燻り続けた夢があった。Henry's Fork の名ポイント、WOOD ROADで、PMDのマッチ・ザ・ハッチを私のガイディングで芦澤さんに釣らせる、しかも彼の世界観をイメージした芦澤Specialアキマルバンブーロッドで彼と一緒に釣る夢である。そのロッドのイメージが33年掛かったが、知らず知らずの内に HEXA として形になっていた。33年間のロッドビルダーとしての経験と技術を出し切れたと言える新作804 HEXA。ドライフライフィッシングの芦澤一洋の世界観をロッドの形で表現出来たと思う。
彼のいない今、一緒に釣る夢、全ては敵わないまでも、「これが芦澤さんに見せたかったロッド、芦澤Special です」と言える一竿になった。
芦澤一洋を私同様に誇らしく、懐かしく思っているフライフィッシャーと一緒に、このロッドで鱒釣りの時を共有出来たら、きっと芦澤さんとも夢枕で盛り上がれるだろう。
奥様をはじめ、ご家族にロッド名の許可もいただけた。
ロッド名は ASHIZAWA
マッチ・ザ・ハッチの大鱒を芦澤さんと一緒に釣る事をイメージながら製作して行く工程も今まで以上に楽しくなりそうだ。
804HEXA ASHIZAWA 完成です。