モンタナからやって来た Jim Dawsonは4月19日から21日まで日本の鱒釣りを楽しんだ。
アメリカ人の釣り
Jimのキャストは、モンタナの名流マジソン川で毎日釣りをしているという彼の言葉を裏付ける、力の抜けた釣り慣れた優しいキャスト。フィッシングベストは着てない。小さなバッグを肩からかけている楽なスタイル。だがバスケットを長年やって来たほぼ2m、100kg超の62歳のガタイはゆったりした動き。表情は川にいるのが一番幸せという釣り人のそれ。
Jimが毎日釣っているのが、世界で一番魚の密度が高いというマジソン川。日本人釣り人にある魚に飢えた感がJimには見え無い。
初日のこの日、私が2時間ほど相手をしたが、どれも神経質な動いている散発のライズばかり。ガイディングを午後から名手T君と交代。
しかし、この日のライズは午後も渋ぶかった。
川の中のゴミ
PM3時を過ぎた頃、ちょっと焦りを感じ始めた私は、パーティのモチベーションを上げるべく、二人が釣った後の場所で 7'0" #4 HEXA に 5x ティペットで55cmのオスの虹を1匹釣って見せた。T君もJimの釣った後のポイントで、数分キャストして 60cmオーバーを7'4" #4 のアキマルバンブーに 6xティペットで、Jimの目の前で取って見せた。そこでJimの目の色が変わった。
しかしその後も Jimには魚の反応は渋いまま。マッチ・ザ・ハッチがセオリーのこの川の大鱒達は、初めてのJimには厳しかった。
この日は夜7時まで、ライトが無いと足元が見えないくらいまで、T君とJimも粘ったが鱒がJimの毛鉤を咥える事は無かった。
「明日!!明日!!」
ホテルの夕食を食べながら、Jimの感想を聞いた。
今日は本当に楽しかった。魚の凄い大きいのがいるのは分かった。でも釣れなかったのは悔しい。こんな小さな川にあんな大きな鱒がいるという事、本当は信じて無かった。あんな短いバンブーロッドであんな大きな魚が取れる事は信じて無かった。でもAkiの言ってた事は嘘じゃなかった。ほんとだった!明日絶対取るよ!。本当にありがと、ございました。乾杯!!
Akiがこの川と鱒を大事にしたいという気持ちは良く分かる。こんな小さな川だったら釣り人が多く来たら、すぐ駄目になるでしょ。それは良く分かるですね。本当に大切な川ですね・・・・今日ちょっと残念は川に中にゴミがあった。あれは駄目ですね・・・・・。
やっぱりね。
その昔1986年最初のモンタナ、アイダホの釣り旅時、私は10日間の旅の間、毎日現地の川周辺と、川の中にゴミを探して回った。日本と同じく川にゴミを見つけ、「なあ〜〜んだアメリカの川にもゴミはあるじゃん!!」・・・・そういう場面を想像してた・・・場所が変わり、川が変わり、日にちが過ぎ、旅も終盤に掛かった時、ゴミがあるという可能性は限りなくゼロに近いと思えた時点で、川と川の周辺にゴミが無い事が旅メンバーの話題になった。その事を自著の「山女魚風よ吹け!!」にも書いた。この事を覚えていたものだから、前回釣時に自身でもいくつか川底や周辺のゴミを拾った。川底のゴミをアメリカ人に見られるのは不味いからと地元の人にもゴミ回収をリクエストしておいたのだが・・・・・。
Jim、よく言ってくれた。明日の仲間のパーティでもこの川の中のゴミの事は指摘して。日本人として襟を正さないといけないからね・・・・・。
その後空気を変えるべく、今日の釣りの反省から明日の再チャレンジへ話題を変えて、解散。
部屋に返ったT君がお茶を入れながら、断言した。
「人に釣らせるのは難しいですね。でも明日は絶対にJimに取らせますから」
「了解、明日は最初から今日の場所をやりましょう。午後から天気が崩れる感じですから、昼までに結果出しましょう」
こうしてアメリカ人の釣り初日は終わった。残された釣りは後2日。最後の1日はかなりの雨で、実質翌日1日で結果を出さないと、日本人として立場が無い・・・・かと言って悲壮感は二人には無かった。これまで二人でこの川を釣って、釣れ無かった事は一度もないからだ。それ位二人ともこの川の釣りならば自信があった。
「まあ、明日アメリカ人にも良いサイズを取らせましょう」
日本のマッチ・ザ・ハッチ
2日目 4月20日 朝9時からJimはT君のガイドで頑張った。しかし12時までJimの毛鉤を鱒が咥える事は無かった。T君は家族を迎える為、川を上がる。ガイディングを私が変わる。
昨日、今日のJimの釣りを見ていて、鱒がJimの毛鉤に反応しない原因は、大体分析できていた。私の感想は、右手の3クウォーターのキャストを場面により、リバースキャストでやってみる事。静かに水音を立てないように、ゆっくり近づく事、2m近いJimに腰を低くしてキャストする事をJim に提案。
毛鉤を#14番のフラブのCDCスペントを結んで、ライズを待つ事5分。Jimの射程範囲に一度良いサイズのライズ。すかさずJimに1投だけ投げさせた。
うまく毛鉤がレーンにのった。ライズの地点にかかった・・・・・・が何も起こらなかった。毛鉤を静かに水面から抜いた。すると数秒後又同じ箇所でライズ。
「Jim毛鉤が違う、毛鉤を変えよう」
結んでいた毛針の浮力が強すぎるのだ。Jimのその毛鉤を私が受け取り両翼3枚ずつのCDCウィングの2枚ずつを残して、1枚だけを根本からカット。
それをJimがリバースキャスト。
毛鉤がレーンに乗って流れた・・・流れて・・・流れて・・・ライズの箇所でBINGO!!
水面が爆発した。数秒暴れたが、ラインが出過ぎていて、巻き取りのトラブル!!
数秒で鉤が外れた。残念!! Jimと顔を見合せ苦笑い。
その間にも別の個体のライズ。やっと魚にスウィッチが入った。「 Jimもう一度同じキャストで!! 毛鉤もそのままで良いから!!」
Jimがキャスト。毛鉤が流れ・・・・流れて・・・・・・流れきった。その後でライズリング。先程までのライズよりも用心深い静かなライズ。先ほどまでの毛鉤を鱒が見切っていた。
「Jim毛鉤を渡して」受け取った毛鉤の両ウイング1枚の半分だけカット。残り1枚半ずつにして水面に対する絡みを深くなるようにした。
Jimがキャスト。毛鉤が流れて・・・流れて・・・・鱒が出た!!
Jimが合わせたが今度は鉤掛りしなかった。Jimがもう一度投げたが毛鉤が通り過ぎた後でもう一度ライズ。Jimが再度キャストする・・・しかし鱒が毛鉤を加える事は無い・・・同じ箇所でライズは続いた。
「Jim毛鉤を渡して」彼がが投げていた毛鉤を受け取った私は残された半分ずつの残ったウイングを根元でカット。両ウィングを1枚だけに薄くしたのだ。スペントスピナーと言うよりも、水面下のシャックの揺れを意識したフライに変化させたのだ。毛鉤の水への絡み方は気持ち深くして、水面下のウイングの揺れを強調したのだ。
Jimがキャスト・・・・・毛鉤が狙いのレーンに乗り流れた・・・・流れ・・・・流れて・・BINGO!! 水面が爆発した!! リールが鳴った!!「巻いて!Jim巻いて!!」・・・・Jimが巻いて・・・・巻いて・・・・水面の爆発をひき寄せた!!・・・近づいた私に・・・水面が暴れた・・・・そして・・・私がネットを差し込んだ・・・BINGO!!
バンブーロッド " デザイナー " という幸せ
鱒は50cm丁度の雌のレインボーだった。
Jimの巨大な手と、グチャグチャの笑顔はこの旅のクライマックスになった。
アメリカの大きな川で大きな鱒を釣るのと、この小さな川で、同じサイズの大きな鱒を釣るのは、全然違う釣りでした。その事は使うバンブーロッドが違う事もハッキリ理解しました。この小さな川でHenry's Forkの50cmオーバー鱒を釣る時に使う、8'0" #4 のロッドは、長過ぎるですね。もっと短い7'6" や 7'0" のバンブーロッドをAkiが製作している意味がよく分かります。
Akiが工房で話してくれた通り、Akiの HEXA バンブーロッドは間違いない本物の道具ですね。でもアートの作品のように細部まで美しい。Akiはバンブーロッドビルダーと言われてますが、Akiがやって来た仕事はビルディング=組み上げるというよりも、ゼロからバンブーという素材を使って、新しい道具 HEXAバンブーロッドを創造したのですから、バンブーロッド"デザイナー"という言葉が Aki には相応しいですね。
今日やっと1匹取れた。でも今日の魚は僕の魚では無い。Akiの魚😎・・・明日は自分で取りたいですね・・・・・・とJimが言った。
残念ながら翌日、最終日は雨で釣りが出来ないまま、Jimの日本釣り旅が終了した。
出発待ちの新幹線駅でJimが面白い事を聞いてきた。彼の質問の真意までは理解できなかったのだが・・・。
Akiは幸せですか?バンブーロッドの仕事をやって来て幸せですか?
「・・・うん、幸せだね。楽しい釣りを自分の好きな時に出来て、自分の好きな物作りを仕事に出来て、子供2人を東京の大学までいかせられて、家族皆が幸せな生活が出来てるのはバンブーロッドと鱒のおかげだからね。これ以上の幸せは僕には考えられないね」
今回 2日間しかJim にHEXAを使わせる事が出来なかった。彼の日常にあるマジソン川。この名流は荒瀬のフリーストーンの大鱒川。マジソンで私が使うとしたら 8'0" #5 2pcのHEXA Number-5 だ。大男Jim Dawson ならばこのTROUT HEXAを楽に使いこなせるだろう。彼の日常で、彼のパーソナルロッドとしてHEXA を使えば、iCloud 世界の男の素直なバンブーロッド感が聞けるだろう。今度は私がJimの世界をリポートしよう。