竹竿屋の風景 微々たるもの
此処数年視力の衰えから好きな読書を2年ほど完全にやめていた。バンブーロッド作業用の視力の温存のためでもあるのだが、一月ほど前、たまたまではあるが病院の診察待ちを考え、持参していた自作の文字級数の大きな本を退屈凌ぎに読み始めた所、30分以上夢中に読んでいたのだ。若かりし頃の自分の無茶ぶりが懐かしく、昔の若いエネルギッシュな自分が面白かったのだ。30分以上、本を読むなど数年ぶりの事で、昔の読書の興奮が蘇った。その読書の麻薬の味を思い出し、プロの文章家達の書いた昔の釣り本を探し出し、改めて読む事が始まった。やはり何しろ読書は映画と一緒で楽しいに尽きる。その流れで改めて気づいた事があったので今日はその話。
当たり前の話、やはり本物の文章家が書く文は上手さが違う。改めて自分が文章作家では無くバンブーロッドデザイナーである事に、一種の安堵を覚えた。同時に面白い事にも気がついた。文章家達の物語もほんの微々たる事象を、膨大な物語として如何に上手く発酵・熟成させるか?!その微々たる事をどう料理するかで、物語の良し悪しとプロ作家の力量はほぼ決まるのだろうと思えた。
微々たるもの、その事に拘る大事さは私のバンブーロッドデザインでも同じ。微々たる疑問から始まり、その疑問を解決する為の創意工夫作業の繰り返しでロッドが進化、結果一本の新作バンブーロッドが生まれたり、今まで存在しなかった新機軸のバンブーロッドを生み出す物語になる、そう言う信念の元、数十年バンブーロッド・ デザインを続けている。
私が1987年に最初のソリッド製 6角ブランクのバンブーロッド 7'4" #4 の金属製パイプフェルール製の2pc の完成時に、感動と同時に感じたモヤモヤ感、そのモヤモヤを未だに引きずっている。
それは、金属製パイプフェルールの直線部位に関しての疑問だ。この直線部位が靱ったら、バンブーロッドのアクションはもっと良くなるのでは・・・・???。靱らない理由はすぐに理解出来た。金属製ジョイント部位は物理的に曲がらないのだ。当たり前だその金属部位が曲がったら、差し込んだジョイントは抜けなくなるのだから。それでも金属製ジョイントのバンブーロッドがワールドスタンダードとして100年近く続いているのも、バンブーロッドという天然素材道具の面白さなのだろう。
200cm以上の長さのロッドの中に5cmの曲がらない部分が存在しても、それは微々たる問題。希望の距離を美しいラインで投げる事が出来、山女魚岩魚の繊細な動きに追随し、尚且つ剛力鱒の力を吸収して、上手くランディングまで完結できるフィッシングロッド・・・それでバンブーロッドは完結出来ている・・・。2024年の現在でもワールドスタンダードで銘竿と言われるほぼ全てのバンブーロッドが金属製パイプフェルール・ジョイントロッドなのだ。
でも私は、バンブーロッドのジョイント部位を靱らせたい・・・・バンブーロッドデザイナーとしての私の希望と拘りとその解決への挑戦は13年目を迎えている。
2024年 今年の764 HEXA
今年4月、764 HEXA (去年秋、バンブーロッド業界の生きるレジェンド Hoagy B.Carmichael の為に製作し、納竿した764 HEXA バンブーロッド 7'6" #4 2pc = ジョイント雌の端口に正6角形で、幅12mmメタルチェックを装着したHEXAトラウト ロッドと全く同じ仕様)で55~65cmの大鱒を数匹、ほぼ納得の行くロッド状態でランディングした。
そのテスト結果を踏まえて、デザインを実験・改良 、5月新作の764 HEXAが完成した。
5月18日 快晴
陽の上がった駐車場広場で繋いだ 新作の 764 HEXAの2pcを、車に立てかけ、ウェーダーのベルトを直していると若い相棒が話かけてきた。
「これが新作の764ですね。」
若い相棒の顔に投げてみたいと書いてあった😁
『おお、そうだよ。振ってみて良いよ。投げてみなよ』
「良いですか?!😎😁 では投げさせてもらいます。ラインは?WF4F?」
『そう、コートランド のSYLKブランドのWF4F 』
「ではでは」・・・・若い名手がキャスティングし始めた。
「へー?!・・・・・これって4月の764と違う感覚ですね・・・・え?!なんなんですかこのラインの伸びは?!?!・・・・・3ヤードから5ヤードはハッキリ違いますね・・・・」
『でしょ!!😎』・・・・・・・・。
「不思議な感覚ですね・・・・・・・・これが先日話されてたロッドなんですね・・・・・・ヒェ〜?!・・・・違いますね〜・・・・ありがとうございました」
『イエイエ😁・・・・では私も投げさせてもらいましょ』
この日と翌日、この新作764HEXAを二人で交互に使いテスト釣り。野生の大鱒56cm〜64cmを合計6匹ランディングした。
4月の764 HEXAのメスの端口に装着していた6角の金属製チェックを取っ払い、幅1mm強のラタンを3重に巻いた。キャスティング時のラインの伸び、そしてロッド全体のベンドカーブの美しさ、大鱒対応時のパワーと粘り、加えてジョイント部位の外観の佇まいと美しさと強度、そしてジョイント部位の確実な靱りを意識した。
この新作 ラタン仕様 764 HEXA バンブーロッドにたどり着くまで、37年掛かった。
37年前の疑問とモヤモヤ感、バンブーロッドのジョイント部位が靱ったらアクションが良くのでは???その答えらしきもの?が新作 ラタン仕様の764 HEXA に見えた様に思える、まだ確信は無い。
7月27日28日、若い相棒とラタン仕様 764 HEXA を意図的に、切れない3xで、夏の剛力大鱒で、HEXAジョイントの強度の最終テストをする。